子供の法話
村上 信哉
「よろこび」探究社 平成14年7月発行79号掲載
お盆
私が阿弥陀様に救われることを説いたお経の名前
保育園での会話
先   生: お盆って何か知ってる?
あやちゃん: うん。レストランとかに行ったらね、ごはんとかをのせてくるものよ。
先   生: その通りだね。えらいねぇ。
まことくん: (手をあわせて)ほとけさま・・・。
先   生: よく知ってるね。えらいねぇ。
まことくん: うん、お母さんに聞いた。
先   生: 盆おどりって知ってる?
誰   も: 知らない・・・。
月が出た出た、月が出た〜♪ とか知らない?
あやちゃん: おどりをね、おばあちゃんに教えてもらったよ。
先   生: へぇー、じゃあ知っているんだね。

 みなさんは腕時計を持っていますか。みんなはもっていなくても、お父さんやお母さんは持っているかもしれませんね。わたしの持っている腕時計は、手に付けていれば自動的にネジを巻くので、電池がいりません。だけど、一ヶ月すると1分も2分も進んでしまいます。わたしの友達の中には、そんな時計が好きだという人もいます。時間はだいたい分かればいいんだそうです。
 人間以外の動物や植物は腕時計を持っていません。いらないんです。だって、朝になればお花は咲くし、秋になれば葉っぱの色が変わってしまうでしょ。おひさまのひかりや温度でだいたい分かるみたいです。この世に生まれてきたものは、時間がたてばおなかがへって、ごはんをたべるとどんどん年をとっていきます。腕時計を持っている人も持っていない猫もみんな年をとっていきます。
 だけど、人間の知らない世界には、年をとらないものがあるそうです。たとえば、ほとけさまの教えがあります。ほとけさまの教えはお坊さんが読んでいるお経なのですが、お経を読んでいるお坊さんはどんどん年をとっていきますが、それはお坊さんが年をとっているだけで、お経そのものは年をとりません。時間というのも時間を感じているみんなはどんどん年をとっていきますが、時間そのものは年をとらずにただそこにあるだけなんです。
 ただそこにあるだけの時間は、だけどみんなに年をとらせます。ただそこにあるだけのお経も、それを読む人にほとけさまの教えを伝えます。お経の教えが伝わった人たちはこころがとってもやわらかくなるそうです。そこで、ちょっとだけ「お盆」という名前のお経のお話をしましょう。
 ある男の子が子犬をいじめました。いじめられた子犬のお父さんやお母さんはとっても悲しんで、怒った子犬のお父さんが男の子にかみつきました。すると、男の子のお父さんやお母さんはとっても悲しんで、怒ったお父さんは噛みついた犬を殺してしまいました。 死んだお父さん犬は男の子に噛みついた罪で地獄に行きました。犬を殺したお父さんも年をとって亡くなると地獄に行きました。どちらのお父さんも子供がかわいかったので、その子供のために地獄に行ったのです。男の子は自分のお父さんが地獄に行ったことなど知りません。子犬も自分をいじめた男の子を恨んでいました。
 あるとき、男の子がお父さんのお墓にお参りをして仏さまの教えを聞いたら、お父さんが地獄に行っていることがわかりました。子犬もお父さんが自分のかわりに地獄に行ったことを知りました。どちらも、もっともっと仏さまの教えを聞きました。そして、自分が地獄に行くような生き方をしたら、地獄のお父さんは永遠に地獄から出ることができないことを知りました。
 やがて、子犬も男の子も大きくなって地獄に行ったお父さんのおかげで、仏さまになる生き方に出遇えたことに気付きました。そのとき、不思議なことに地獄にいたはずのお父さんは仏さまになってよろこんでくれました。大人になった子犬も男の子も嬉しくなってお盆の上にたくさんの食べ物をのせて、仏さまになったお父さんにささげました。
 「お盆」というお経は、お母さんの作ってくれたごはんに好き嫌いを言って、自分で好きや嫌いを勝手に決める教えではありません。好きや嫌いを決めているのはみんなの方で、心のこもったごはんがただそこにあるだけなのです。毎朝お母さんが作ってくれるごちそうを楽しみに、心で味わうように仏さまが教えてくださいました。